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中教審答申を読む
-美術教育連絡協議会提言書-

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公益社団法人 日本美術教育連合主催
造形・美術教育フォーラムのお知らせ

本年12月中に提出が予定されている中央教育審議会答申は、来年3月に告示予定の小中学校学習指導要領の骨組みを示すものです。そして、2030年の社会を想定する今回の答申では、学校教育法に定められた学力の三要素を基にし、国際社会を俯瞰した上での我が国の教育の在り方が論じられています。その内容は、今までの答申と比較してより具体的なものとなり、PISA型学力論や教育方法としてのアクティブラーニングやルーブリック評価などを示唆し、その議論の途中より、教育関係者のみならず社会の各方面から関心を集めてきました。

今回のフォーラムは、平成27年1月25日に開催しました造形・美術教育フォーラム「美術教育の立場から今の子供たちの姿を浮かび上がらせる−資質・能力を共通理解するための円卓会議−」の後継に位置付けられるものです。そのフォーラム後、同会の参加団体であった(公社)日本美術教育連合、全国造形教育連盟、全国大学造形美術教育教員養成協議会、大学美術教育学会、日本教育大学協会全国美術部門、日本教育美術連盟、日本美術教育学会、美術科教育学会(順不同)の8団体によって「美術教育連絡協議会」が結成され、平成27年6月には「美術教育の充実に向けての要望書」を文部科学大臣及び中央教育審議会宛てに提出し、平成28年10月には、図画工作科、美術科で育むべき資質能力に関するより具体的な「美術教育提言」を提出しています。

今回のフォーラムはこの提言を視点としながら中教審答申を読み、新学習指導要領による教育の方向性並びに造形・美術教育の将来像について理解を深めようとするものです。

■日時
平成29年1月22日(日) 14:00~16:30

■場所
武蔵野美術大学 新宿サテライト 新宿センタービル9階 新宿駅西口より徒歩5分

■提言者
小野康男 氏 : 大学美術教育学会理事長、横浜国立大学副学長、同大学院教育学研究科教授
大橋 功 氏 : 日本美術教育学会事務局長、岡山大学大学院教育学研究科教授
大坪圭輔(司会) : (公社)日本美術教育連合理事長・武蔵野美術大学教授

造形・美術教育フォーラムは公開です。
所存団体、学校種などに関係なくどなたでも自由に参加できます。参加費無料です。

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美術教育連絡協議会(8団体)による提言

文部科学大臣はじめ教育課程改訂にかかわる関係者に発信した
「美術教育の充実に向けての要望書」をホームページに掲載するにあたって

公益社団法人日本美術教育連合理事長 宮坂元裕

以下に掲げる美術教育関係の8団体は、3か月かけて作成した要望書を平成27年6月30日に、「美術教育の充実に向けての要望書」として教育課程改訂に関わる関係者に発信しました。
その後3か月が経過した平成27年9月27日、再び8団体は今後の対策について協議しました。
その結果、10月1日、私たち8団体は一斉に、それぞれが所属する団体のホームページに要望書の全文を掲載することとしました。
ホームページ掲載の理由は、要望書を美術教育関係者に広く知っていただき、より深い理解のもと、私たちへ意見をいただきたいことと、内容を多くの人々に広めていただきたいからであります。
ぜひ、ご協力をお願い申し上げます。

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美術教育の充実に向けての要望書

平成27年6月30日

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平成27年6月30日
文部科学大臣 下村 博文 様
第8期中央教育審議会会長 北山 禎介 様
初等中等教育分科会教育課程部会部会長 無藤 隆 様
教育課程企画特別部会主査 羽入 佐和子 様
美術教育の充実に向けての要望書
美術教育連絡協議会
公益社団法人日本美術教育連合
全国造形教育連盟
全国大学造形美術教育教員養成協議会
大学美術教育学会
日本教育大学協会全国美術部門
日本教育美術連盟
日本美術教育学会
美術科教育学会(順不同)

学校における美術教育の意義について、ご理解・ご支援をいただき、厚く御礼を申し上げます。
私たちの「美術教育連絡協議会」は、美術教育に関連する学会・団体などで構成され、学校教育における美術教育の質的向上をめざす全国的な組織です。
中央教育審議会(中教審)では、平成26年11月の文部科学大臣諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」を受け、教育課程企画特別部会等で学習指導要領の次期改訂に向けての構想を検討されている状況かと拝察いたします。
美術教育連絡協議会の構成団体も、「21世紀型スキル」、そして「生きる力」の育成をめざす美術教育の在り方について研究を進め、共同でシンポジウム等も開催して来ました。そのなかで、米国での「21世紀型スキル」に対応する芸術(美術)教育スタンダードや国立教育政策研究所教育課程研究センターからの報告書などを検討し、美術教育は、子どもたちが、よりよい未来をつくるために欠かせない教育であり、その一層の充実が求められていることをあらためて確認いたしました。
その成果を、下記のように、「認知スキル」、「社会的スキル」、「アクティブ・ラーニング」の3つの観点からまとめてみました。次期教育課程の改訂において、学校における美術教育のより一層の充実が図られるようにご勘考いただけるよう要望いたします。

1) 美術教育は実践的なかたちで「認知スキル」の獲得を促進する。

◯イメージと想像力

・「美術」は教育制度上、幼児は表現(造形)、小学校は図画工作、中学校は美術、高等学校は芸術(美術、工芸)及び専門教科の美術として示されていますが、ここではそれらを含めて美術教育とします。その中で、美術の創作活動において、身体感覚を伴ったイメージの働きや実際に経験したことで身に付く能動的知識(active knowledge )の習得は、形式知だけでなく、科学的な発明や発見に寄与する「暗黙知[1]」の獲得にもつながり、21世紀型スキルでの「持続する理解」の基礎となります。

・手はとびだした脳ともいわれますが、美術活動における材料や用具の扱いは、目と手と頭、つまり、視覚と身体、そして脳の働きを連携させて、身体知など含む認知活動を拡充していきます。

・幼児教育での造形活動での「遊び」や小学校図画工作科の「造形遊び」における自然や実材との触れ合い、物や用具を具体的に操作する経験は、ICTの時代にあって、「生きる力」の基盤となる感覚や感性を育む場となります。遊びにおける共感性にもとづく想像力を伴う他者との交流は、人工知能(AI)では代替できない人間らしさや感性をより豊かにします。

◯批判的思考と創造性

・美術作品の鑑賞における「批評」は、作品を記述し、構図などを分析し、作品をめぐる情報を活用して解釈し、主体的な判断にもとづき、作品のあらたな価値を発見し創造していく活動です。美術批評(アート・クリティシズム)は、批判的に思考し(クリティカル・シンキング)、判断し、言語でもって表現することで批判的な思考能力を高める活動です。

・鑑賞活動では、多様な様式・時代・ジャンル・主題等の作品図版を比較したり組み合わせたりして、作品の印象を語り合ったり、物語を創ったりするなどの学習が行われています。形や色を感じ取る活動と言語活動とを実践的に結びつける力が育まれます。他者と対話しながら、異なる対象を分析し、比較し、違いや共通点を判断し、それを言語で説明するというプロセスは、批判的思考力を促します。

・美術の創作活動は、伝統や従来の様式を踏まえながら、それらのよさを継承することで、あらたな価値を創造し作品を生みだす「イノベーション」です。既知のものを批判的に継承・吟味し、思考、判断、表現を通して、未知の価値を発見・創造することです。

・美術では、与えられた既成の正解は無く、自分で正解を見つけながら、創る活動が重視されます。未知の世界にチャレンジしていく活動は、子どもたちが、新しい社会や未来を創ろうとする意欲と実践的な能力の育成につながっていきます。

◯表現と鑑賞の活動を通したメタ認知能力の獲得

・美術での創作のプロセスは、頭の中のイメージを単に形や色に置き換える作業ではありません。絵の具などの材料を使って手を動かしながらできた形や色(出力)を知覚しながら次にどうするかを考え(入力)、筆を進めていくフィードバックに似たメタ認知の行為です。創作活動を通して子どもはメタ認知の能力を働かせ、より汎用性の高い認知能力へと高めていきます。

・グループでの美術鑑賞では、話し合いを通して、同じ作品をめぐって他者の多様な見方や捉え方を知り、自分が知らなかったこと、見えなかったことに気づき、自分を反省(リフレクション)する機会になります。つまり、自身の見方や感じ方をメタ認知し、他者の意見や異なる考え方を、より柔軟に受け入れていく汎用的な能力(キャパシティー)を獲得していくことができます。

2) 美術教育は感性を通して「社会的スキル」を獲得することに寄与する。

◯コミュニケーション

・美術を通したコミュニケーションは、作家のアイデア、作品のテーマ等をただ伝えるだけでなく、感動や感情(喜びや悲しみ、緊張や安堵等)を参加した人々に喚起する効果をもち[2]、実感を伴ったコミュニケーションを可能にします。それは人と人が交流するというコミュニケーションの原点といえます。

・異文化理解に必要なスキルは、美術を媒介にした美しさや人間らしさなどを感じる共通感覚(コモン・センス)にもとづく社会的に共感する感性が働くコミュニケーションによって培われます。

・美術による表現は、言語表現が苦手な幼児や特別な支援を必要とする子どもにとっても非常に有益なコミュニケーション・ツールとなり、多様な子どもたちが共に学ぶインクルージョン教育の促進に寄与します。

・言語表現が苦手なため、コミュニケーションができなくて、ストレスをためた子どもが暴力行為にいたる前に、周囲の人たちと美術の表現活動を通してコミュニケーションをもつことで「ストレス・コントロール」ができたのは[3]、美術を通して汎用的な社会的スキルを獲得した事例です。

◯ICTとコラボレーション

・美術教育におけるICTの活用は、現行の中学校や高等学校の学習指導要領においても「映像メディア」の学習が明確に位置づけられ、ネットを活用した多様な実践が行われています。美術では情報機器の操作方法の学習ではなく、表現や鑑賞の目的を実現するためのツールとして機器を活用しています。小学校でもアニメーション製作やデジタル・カメラを使った活動が実践されています。美術では、各種の情報機器を自分で定めた目標実現のためのツールとして活用する活動を通して、汎用的な表現力が育ちます。

・感覚的に確認できる材料や形や色を媒介にした美術での共同制作は、言語だけのグループ活動よりも、より一体感を味わえる協働活動です。最近ではグループ内、学級内にとどまらず、異なる国の子ども同士がインターネットを通して大きな作品を共同制作する国際的協働プロジェクトもみられ[4]、「異なる人々の間で協働していく能力(Interacting in heterogeneous groups)」[5]を形成することにも寄与しています。

3) 美術教育は「アクティブ・ラーニング」のモデルを提供し推進する。

◯美術の学習活動の本質は主体的で協働的な問題解決学習

・アクティブ・ラーニングは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学習者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」(文科省用語集)とされます。美術教育の理念として国際的に共有されている「芸術(美術)による教育」(H. Read)では、教師主導ではなく、子どもに内在する素質や創造力を引き出すことを基本的な考え方としています。その点からみれば、美術教育の実践では、「学習者の能動的な学修への参加」を重視してきました。

・アクティブ・ラーニングという観点からあらためて、美術教育の理念、内容、方法等を検証しますと、子どもが自分で表したいことをみつけ、創意工夫を楽しみながら主体的に表現する活動や、クラスやグループで作品を鑑賞し、お互いの意見を述べ合う中で、発見したり考えを深めたりする活動等に典型的にみられるように、子どもの主体性を基盤とし、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、協働的学習等の多様な形態を含んでいることがわかります。その意味で、美術を通した学習は、アクティブ・ラーニングの先導的なモデルとなります。

◯アクティブ・ラーニングとしての図画工作科、美術科等の学習

・図画工作科、美術科等の学習活動における子どもの主体的な学びは、小学校での自らの感覚やイメージをもとに発想・構想していく「造形遊び」や、中学校での主体的に表現する「主題を生みだす」活動などの事例にその特質が示されています。

・ゲーム活動やロール・プレイングを取り入れた鑑賞活動、作品を媒介にした子どもの話し合いによる気づきや反省をもとにした作品理解と他者理解を深めていく鑑賞活動も、アクティブ・ラーニングの好例といえます。
以上、「美術による教育」が、「思考力・判断力・表現力」の育成と「21世紀型スキル」や「キー・コンピテンシー」で主張される理念や考え方を既に実践してきたこと、これからの知識基盤社会において求められるイノベーションや予測を超えた問題の解決に柔軟に対応できる人間に求められる資質・能力の育成に不可欠な教科であることを、あらためて確認いただければと思います。

また、「文化芸術振興基本法、第二十四条(学校教育における文化芸術活動の充実)」が求める「文化芸術に関する教育の充実」を実現できる教育課程についてもご勘考いただけますよう、重ねて要望いたします。

最後に、「生きる力」は英訳(文科省ウェッブ・サイト)では、「生きる喜び Zest for living (zest: enjoyment and enthusiasm)」となっています。「生きる喜び」は、美術、そして多くの芸術とともに、豊かに生きる生活においてこそ味わうことができるものだと思います。

□連絡先 「美術教育連絡協議会」事務局
担当 増田金吾(東京学芸大学 理事・副学長)
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
国立大学法人東京学芸大学 事務局
電話番号 : 042-329-7852 E-mail : masuda@u-gakugei.ac.jp

美術教育連絡協議会 参加8団体一覧 (五十音順)

■公益社団法人日本美術教育連合
理事長 : 宮坂元裕 : 横浜国立大学名誉教授
団体概要 : 1953年社団法人として国際美術教育学会開催を機に設立。以後研究活動を続け、2011年3月公益社団法人として認定される。会員数約220名。

■全国造形教育連盟
委員長 : 大野正人 : 杉並区立井草中学校校長
団体概要 : 造形教育の振興を目的とし、1948年から大会を実施。都道府県毎に会が編成され、公立私立幼稚園から、小、中、高、大学及び美術館から成る組織体。

■全国大学造形美術教育教員養成協議会
会長 : 磯部錦司 : 椙山女学園大学教授
団体概要 : 全国の私学を中心とした美術教育に関わる教員・保育士養成課程をもつ大学・短期大学361機関によって養成の充実と美術教育の振興を目的に組織。

■大学美術教育学会
理事長 : 増田金吾 : 東京学芸大学教授
団体概要 : 教大協第二部美術部門を母体に1963年に創立。美術科の教育や教科専門、その他多くの研究者や教育実践者の発表がなされている。会員数約650名。

■日本教育大学協会全国美術部門
代表 : 増田金吾 : 東京学芸大学教授
団体概要 : 1952年発足の日本教育大学協会第二部美術教育部会が設立母体。教員養成系の国立大学法人の大学・学部の教員が機関加盟している。会員数330名。

■日本教育美術連盟
理事長 : 松山 明 : 大阪芸術大学講師
団体概要 : 全日本図画教育全国大会(1940年)を端緒とし、1949年に発足。以降毎年全国各地で授業研究を柱に研究大会を開催し、幼小中高の美術教育の振興に寄与。

■日本美術教育学会
会長 : 神林恒道 : 大阪大学名誉教授
団体概要 : 美術教育の理念を究明し、より良い教育実践の方策を探求することを目的として1951年に創設され今日に至る。会員約400名。

■美術科教育学会
代表理事 : 永守基樹 : 和歌山大学教授
団体概要 : 図工・美術科教育を核に、乳幼児教育や生涯学習、インクルーシブ教育などを含む美術教育研究を推進。1979年設立。会員約570名。


[1] 中教審(答申)、平成20年1月17日、 p.24
[2] 全米美術教育学会(NAEA)による「21世紀型スキルに対応した美術教育のスキル・マップ」より
[3] National Endowment for the Arts and U. S. Department of Justice; The Art in Peacemaking, 2005
[4] NPO「ジャパン・アート・マイル(JAM)」支援のプロジェクトの例など。
[5] OECD (DeSeCo)の定義による3つのキー・コンピテンシーの1つ。

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美術教育提言書

平成28年10月24日

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文部科学大臣 松野 博一 様
文部科学省初等中等教育局長 藤原 誠 様
第8期中央教育審議会会長 北山 禎介 様
第8期中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会部会長 無藤 隆 様

美術教育連絡協議会 代表 小野 康男
【美術教育連絡協議会加盟団体】
公益社団法人 日本美術教育連合
全国造形教育連盟
全国大学造形美術教育教員養成協議会
大学美術教育学会
日本教育大学協会全国美術部門
日本教育美術連盟
日本美術教育学会
美術科教育学会 (順不同)

学校における美術教育の意義について、ご理解・ご支援をいただき、厚く御礼を申し上げます。 私たちの「美術教育連絡協議会」は、美術教育に関連する学会・団体などで構成され、学校教育における美術教育の質的向上をめざす全国的な組織です。

現在、学習指導要領の改訂に向けて引き続き検討がなされている状況かと拝察いたします。美術教育連絡協議会の構成団体も、美術教育の理念がより深く理解されるため、また、子どもたちの学習の質的な向上に資するため、美術教育の在り方について研究を進め、共同で研究会やシンポジウム等を開催して来ています。その中で、美術教育は、子どもたちがよりよい未来を創造するために欠かせない教育であり、その一層の充実が求められていることを確認してきました。そしてこの度、その成果を下記「美術教育提言」としてまとめました。

本提言は、学力の3要素に立脚したアクティブ・ラーニング等の推進に資する有意な教員の育成のため、幼児、児童・生徒の資質・能力育成に向けて示された新しい3つの観点のもと、図画工作科・美術科で育てる資質・能力の相関を47の項目と具体例で示すマトリックス(別紙1)、同マトリックスで示した47項目の資質・能力のうち、それらが育成される幼稚園~高等学校における具体的な11件の実践例(別紙2)をともに提示するものです。

次期教育課程の改訂において、学校における美術教育のより一層の充実が図られるようにご勘考いただけるよう要望いたします。

現在、学力の3要素を基軸として、初等中等教育のみならず、大学教育、大学入学者選抜も含めた一体的な改革が進行している。次期学習指導要領改訂では、教育課程全体を教育関係者だけではなく広く社会において分かりやすく理解できるよう整理することによって、学校種等を越えた初等中等教育全体の姿を描くことを目指している。そうした中で、現行の制度内においても、学力の3要素に立脚してアクティブ・ラーニング等の実効的な推進が喫緊の課題となっている。

初等中等教育における美術教育(ここでは、小学校図画工作科、中学校美術科、高等学校芸術科(美術、工芸)及び専門教科の美術の総称とする)のこれまでの取り組みと上記の課題との関係を未来志向的に捉えることで、今後の初等・中等教育に向けた提言を行っていきたい。

美術教育は、従来から、学力の3要素と密接な関係をもってきた。それと同時に、この関係にあいまいな点があったことも否めない。今後、学力の3要素を契機として、美術教育の一層の体系化を図り、学校教育において、そして生涯にわたる教育において、いかなる寄与を行ってきたのか、また、行っていくのか明らかにしたい。

○学力の3要素 : 知識・技能

図画工作科、美術科等において求められる知識・技能は、造形や美術を豊かに捉えたり考えたりするときの視点や基礎的な事柄に関する知識、実技に関する技能等が考えられるが、一方では、それが身体を通した感性的な体験として経験され、個人一人一人が環境(他者、社会、自然)と関わる中で再構築され、表現や鑑賞として他者との関係の中で対象化される必要がある。ここに、すでに3要素の関係が包含されている。

○学力の3要素 : 思考力・判断力・表現力

上記の知識・技能の習得や深化の過程で、図画工作科、美術科等においては、思考力・判断力・表現力が不可分のものとなっている。環境と関わる身体を通過することで知識・技能が学的・領域内的に深化する場合もあるが、自由な連想のもとで、領域連結的に移行・往還する場合もある。ここでは、知識・技能に関する二つの態度が問われる。過去・現在・未来において同一である真理を志向する態度と、新たな条件の付加によって真理の在り方が変わりうるとする態度である。

美術では、従来この第2の要素を感性的な経験として扱い、経験の矮小化を危惧して言語化を忌避する傾向があった。しかし、現在求められている言語化は、新たな条件を感性的経験にふさわしい領域横断的な言葉によって言語化する能力である。そこには、視覚言語によるコミュニケーションの果たす役割が大きい。

○学力の3要素 : 主体性を持って、多様な人々と協働して学ぶ態度

美術教育において、とりわけ初等教育段階での図画工作科は、グループによる学習を推進し、この点での基本的な経験を多く有している。しかし、それゆえに、主体性と協働の関係が単純なものではないことも熟知し、表面的な名前だけのアクティブ・ラーニングや協働ではない、実効的なものを目指している。他者との協働が新たなものを生み出し、それを、協働者相互で評価することができる言語を生み出すことが必要となる。もっとも、それは、子どもたちの日常的な言葉から、教科横断的、学問横断的な言葉へと、そして新たな対象の出現を評価しうるイノベーション的な言葉まで及ぶ、幅を有するのである。

美術教育が初等中等教育においてもっぱら携わるのは、知識・技能と思考力・判断力・表現力の関係であるが、美術教育において対象を産出することは、主体性を持って、多様な人々と協働して学ぶ態度に支えられている。逆に言えば、人間社会を持続可能なものにするこの要素を通して、人間の自己形成的・自己可塑的能力を支えることで、他の教科に対してもその基層となり、これを支えていく関係を有するのではないだろうか。狭義の正解に制約されず、協働的な正解を探求していくというイノベーション的な能力、及び、それに必要なモチベーションの創出によって、美術教育は、自己の価値や考えを、意欲を持って追求する場として、他の教科にとっても有効な概念の創出のための好適な場となる。

しかし、注意しなければならないことは、こうした能力が持続されるためには、基本的な教育課程の目的意識を持った持続、及び、領域横断・連結的な教育能力を持った教員の養成が必要であるということである。

□連絡先 「美術教育連絡協議会」
代表 小野康男(横浜国立大学)
〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-2
国立大学法人 横浜国立大学
電話番号 : 045-339-3458

美術教育連絡協議会 参加8団体一覧 (五十音順)

■公益社団法人日本美術教育連合
理事長 : 大坪圭輔 : 武蔵野美術大学教授
団体概要 : 1953年社団法人として国際美術教育学会開催を機に設立。以後研究活動を続け、2011年3月公益社団法人として認定される。会員数約220名。

■全国造形教育連盟
委員長 : 大野正人 : 東京都杉並区立井草中学校校長
団体概要 : 造形教育の振興を目的とし、1948年から大会を実施。都道府県毎に会が編成され、公立私立幼稚園から、小、中、高、大学及び美術館から成る組織体。

■全国大学造形美術教育教員養成協議会
会長 : 磯部錦司 : 椙山女学園大学教授
団体概要 : 全国の私学を中心とした美術教育に関わる教員・保育士養成課程をもつ大学・短期大学361機関によって養成の充実と美術教育の振興を目的に組織。

■大学美術教育学会
理事長 : 小野康男 : 横浜国立大学教授
団体概要 : 教大協第二部美術部門を母体に1963年に創立。美術科の教育や教科専門、その他多くの研究者や教育実践者の発表がなされている。会員数約650名。

■日本教育大学協会全国美術部門
代表 : 小野康男 : 横浜国立大学教授
団体概要 : 1952年発足の日本教育大学協会第二部美術教育部会が設立母体。教員養成系の国立大学法人の大学・学部の教員が機関加盟している。会員数330名。

■日本教育美術連盟
理事長 : 松山 明 : 大阪芸術大学講師
団体概要 : 全日本図画教育全国大会(1940年)を端緒とし、1949年に発足。以降毎年全国各地で授業研究を柱に研究大会を開催し、幼小中高の美術教育の振興に寄与。

■日本美術教育学会
会長 : 神林恒道 : 大阪大学名誉教授
団体概要 : 美術教育の理念を究明し、より良い教育実践の方策を探求することを目的として1951年に創設され今日に至る。会員約400名。

■美術科教育学会
代表理事 : 水島尚喜 : 聖心女子大学教授
団体概要 : 図工・美術科教育を核に、乳幼児教育や生涯学習、インクルーシブ教育などを含む美術教育研究を推進。1979年設立。会員約570名。

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